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How to Set-up.

How to Set-up

About QRS

車をセットアップしていく上で、基本となる手順をご紹介します。


車  高
足回りは車高を下げるために購入すると言う方もいらっしゃるでしょう。
通常、車高はノーマル比25~35mmダウンが一般的で、AMGやM3のようなメーカーコンプリートカーは20~25mm ダウンになっています。
ノーマルの車高からこれ以上下げる場合、扱いづらさが出てくるのも確かです。
商品を選ぶ際には、自分がどういう車高で使用するかをあらかじめ想定して注文をしてください。
間違った解釈で、車高調は・・・・・というくだりの中でプラスマイナス30mmなどという表現を耳にしますが、車種により可能な場合もありますが、バネレートとバネ上荷重から想定される走行中の最大荷重に対して、ダンパーの有効ストロークを十分に確保した上で、車高を下げる・・・・・。
実際やってみると、そんな簡単なことではありません。
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ダンパー単体で見ると、ダンパーボディ内のガス室はできるだけ大きく取りたい。
とくに QUANTUMはセカンドピストンがあるのでぎりぎりの設計になっている。
床に静止した1Gの車高からジャッキアップをすると伸びてくるタイヤの0G時のリバウンドストロークは十分に確保したい。むろん1Gからバンプラバーに当たるまでのバンプストロークもバネレートなりに必要だ。
それを最後に受けとめるバンプラバー(補助バネ)も厚い方が特性が良い・・・・・・。
はっきり言って、そんなに車高の調整範囲なんて残っていませんよ。

レーシングカーが車高を低くできるのは、固いバネを装着して、短いストロークの中でセットアップしているからです。そのレーシングカーですら、車高の調整はデフォルト(標準車高)に対して+/-3mm。
基本的には、自分の求める車高をきめて、そこをピンポイントで押さえてからダンパーの寸法を決めないと基本的な性能を削る他はありません。
フルタップの全長調整式という言い回しが心地良いのかもしれませんが・・・・・・。
あのおむつカバーのような車高調整機構の中身(=シリンダーとボディキャップのスキマ)はただの空間であることは覚えておいても損はないでしょう。

でも難しいのが、車高を下げてみてからでないとわからない、タイヤとフェンダーのスキマ。
車高が高いときには気にならなかったスキマも、車高を下げると前後のスキマの差が気になります。
サスペンションキットを交換後、交換前の車高と比べてみると、確かに25~35mm 車高が下がっているのに、なんか前上がりの車高に見える。
この辺は、有名ショップさんに相談してから発注されることをお勧めします。有名ショップさんは、同じ車を何台もやって、自社でもテストをして、その車の一番良い車高や癖を知っています。
そして、車高が思ったような車高にならなかったら、何度も付けたり外したりしながら調整してくれるはずです。
最悪なのが、技術もなく、部品交換をするだけで調整するすべを知らないショップ。
チューニングという意味も分からず工賃だけは人並みに取っているショップは要注意です。
それと、車の違いによる基本的な車体の姿勢。
FR車は基本的には後輪に荷重が掛からなければ、トラクションも掛からず、パワーオンによるリア旋回も期待できません。だから、FR車のセオリーはフロントに比べてリアを低めにセットします。
そうかと言って、2シーターでホイールベースが短いFR車は若干違います。
ドライバーの着座位置がリアよりの車は、空車1G時(1G=床に静止した状態)の姿勢を水平くらい(床面の車高)にしておかなければ、乗車1G時の姿勢でリアが下がりすぎてしまいます。
物には限度が、そのスイートバランスはせいぜい5mm~10mmのニュアンスです。
FF車の前傾姿勢も程々に。

注意しなければならないのがヨーロッパ車。 特にフェラーリやポルシェはフラットボトムで車体下面の前後の車高差が、高速域でふらつく原因になってきます。
例えば200km/h オーバーで走行中、駆動をリアタイヤで行っていたとします。
仮に、乗車1Gで水平に車高をあわせていたとすれば、走行中フロントは風の抵抗でリフトし、リアは駆動により沈み込みます。すると、前上がりのフラットボトムは確実にふらつく原因になります。
リアウイングがあればなおさらその傾向が強まります。
いかに走行中の車高を意識してセットアップする必要があるか。
タイヤの外径も関係してくるだけに、フェンダーのスキマだけで車高をあわせるのは危険です。
しっかりとノーマルの姿勢(前後の車高)を車体下面の車高で把握した上で、作業を開始してください。

走行中の車高でもう一つ。
エレクトリックデバイスの制御系は、ドライバーの意思にかかわらず勝手に介入してきます。
ABSの作動にしても、1Gからのバンプラバーまでのストロークをテストした足回りでなければ危険です。
ABSは諸刃の剣。ABSが作動した場合、ノーブレーキに陥るリスクは非常に高いことを知っておいてください。サーキットのスポーツ走行でも、ABSの介入が原因で事故に至るケースが増えています。

例えばハードなブレーキングでフロントは沈み込みますが、ストロークが多ければ良いってものではありません。
前が沈み過ぎればリアが必要以上に持ち上がります。すると、リアタイヤが路面の凸凹で地面から浮き上がり、ブレーキがロックしやすくなります。
0G~1Gのリバウンドストロークが短すぎる場合、ツクバでは走れても、セントラルでは路面からタイヤが離れブレーキがロックしやすくなりがちです。
ましてや峠のあれた路面では・・・・・。
ABSって聞こえは良いけど、ノーブレーキですから。

このように、車高をおろそかにすると、せっかくのサスペンションキットも本来の性能を発揮できません。
だからといって、車高の調整幅を増やすと1Gからのストローク管理ができない・・・・・。
やっぱり車高はピンポイントであわせ、フロントかリアの車高を基軸に、前後バランスを調整するのが一番です。
でもかっこいい車高にしたいですよね?
理想はショップさんがきっちり合わせることですが、納車前に何度か組ばらしをし、試乗をしてから納車するくらいの作業メニューとしていただきたいものです。


スプリングとバネレート
スプリングは、メーカーにより味付けが違います。(お電話ください)
QUANTUMでさえも安いスプリングを装着したらスイートスポットは出てきません。QRSがオリジナルスプリングを作らず、高級ブランドの高価なスプリングにこだわるのはそのためです。
メインスプリングの選定基準としては次の項目が挙げられます。
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バネレートの選定は、サスペンションキット全体の方向性を決める重要な作業です。
サーキットを走るわけでもなく、峠はツーリングの道中で気持ちよく走る程度であれば、市街地~高速の快適性を重視したバネレートにした方が良いでしょう。
しかし、湾岸の高速コーナーをグ~っと荷重をかけてコーナーリングをするのであれば、ソフトなバネレートのままどんなにダンパーの減衰力を上げたとしても良い結果は得られません。バネレートはそれなりの固さが必要になってきます。

QRSの場合CONFORTでも、純正よりそこそこ固めのバネレートになっていますから、高速道路(直線を)でかなりとばすという方でも、QRS標準の柔らかめな設定で大丈夫です。
たまにありますが、固めのバネで動きがもっさりとしてくると、ペースを上げるとしっくりするところも、普段軽く流しているときにゆっくりステアリングを操作すると、ロールの姿勢を作るまでに動いている時間が長くなり、不安定に感じます。ソフトなバネレートであれば、ゆっくりとステアリング操作をしても、パッとバンプラバーに乗って姿勢が固まるので安定しているように勘違いされますが、こういう見解の相違が生じないよう、事前によく話し合ってから仕様を決めていった方が良いと思います。
バネレートの目安はいくつか出していきますから。

よくQUANTUMは車高調ですか?という質問をいただきます。
スプリング・プリロードの重要性を理解していない方にありがちな質問です。
ダンパーのシリンダーには、スプリングプラットフォームが上下するためのネジ(スレッド)が切ってありますが、本来の目的は、長さの違うバネに対して部品の汎用性を持たせるための設計です。
フロントには短くて軽いバネ(=早く戻るので結果的にロールが減る)、リアには長くて重いバネ(=ゆっくり動くのでしっとりとした乗り味と、路面の凸凹に跳ねづらい)、そしてヘルパースプリングと組み合わせたりする時に、便利な寸法となっています。

スプリングのプリロードは、メインスプリング単体で使用する場合0~5mmの間で調整していきます。(バネレートにもよりますので、基本的な数値とご理解ください。)
乗り心地の質や、スプリングの沈んでいく過渡特性でも変わってきますが、これを調整する場合、せいぜい0.5回転~1回転ずつ調整することをお勧めします。(1回転で1.5mm動く)
バネメーカーにより、6mm位掛けた方が良い場合もありますが、材料の応力の低さを補うためのごまかしか、根本的にバネレートが低すぎるのをごまかすためと思われます。

だからと言ってソフトなバネレートで、プリロード0~5mm にこだわりすぎるのもNGです。
ソフトなバネレートの場合、リバウンドストロークが多くなりすぎる場合があります。
リバウンドストロークが長すぎてもタイヤの内減りの原因となりますのでご注意を。
フェラーリやポルシェは、このリバウンドストロークを的確な数値に入れています。国産車もここ5~6年で近づいてきました。安直な車高調はどうなっているのでしょうか?

逆に、そこそこ固いバネで車高をあわせるためプリロードを10mmとか20mmとか掛けてしまうと、ゴツゴツした乗り心地になる場合が増えてきます。乗り心地があまりにもひどいときには、メインスプリング単体でプリロードをかけ過ぎているのではないかと疑ってみる必要があるでしょう。
ただし、15mm プリを掛けた方が良かったりする時もありますが、非常にレアなケースといえます。

ヘルパースプリングは、3種類の目的があります。
0.5k以下のソフトなヘルパーは車高調整と遊び防止。
密着荷重や車を押し上げるネガティブを考える必要がないので、バネレートを変える際にはスプリングの遊び防止として便利です。
フロントに使うかリアに使うかにもよりますが、1Gのバネ上荷重に対して、何%の所に密着荷重を持って行くかで乗り心地やハンドリングが変わってきます。
注意しなければならないのは、ある程度プリロードを掛けて(8mm~25mm)使用すると言うこと。荷重が抜けたところでタイヤを路面に押しつける作用は、逆に下から車を持ち上げることにもなるので、ロールは増えます。(内側が伸び上がる)ダンパー側でリバウンドストロークを管理していても、フロントに3k以上のヘルパーを使うとこの傾向は強く感じられます。
0G~1Gのリバウンドストロークを確保する。リバウンドストロークを適正な値に持って行くと共に、前後の車高バランスの微調整に有効です。
リバウンドストロークが少ないと、車種によってはホイールスピンを誘発します。リアタイヤが浮き上がるとABSが作動し、ノーブレーキ状態に陥ったり、手痛いオーバーステアに見舞われかねません。
例えば3k~6kのヘルパースプリングを、1Gのバネ上荷重が300kgfの車に使用する場合、ヘルパースプリングが密着する荷重が120kgfなら1Gバネ上荷重の40%、180kgfなら60%のところがバネレートの折れ曲がりポイントになります。 ここがポイントです。

密着荷重を50%以上に設定すれば、乗り心地が良くなる反面、別の問題が浮上してきます。
フロントに使用した場合、高速で空力的にリフト、またはコーナーの出口でトラクションを掛けると、荷重が抜けて急にふわふわします。(瞬間的に輪荷重が抜けて密着荷重以下になるため実質1Gバネ上荷重の120%と同じことになる)このような時には、密着荷重の低いヘルパーと組み合わせます。
ラリーカーはオフロードでのトラクションを良くするために120%(360kgf)に設定する場合もありますが、サーキットにこの状態で持ち込むと、ステアリングの切り始めでちょこんとロールしてしまい結構怖い思いをします。ラリーカーを走らせるとそもそも違和感のあるハンドリングを示すのはこのためです。

逆に0.3k~0.8kのソフトなヘルパースプリングで、30kgf~45kgfと密着荷重の低いヘルパーを使った場合、リバウンドストロークは足りているのでホイールスピンこそしませんが、ピョコピョコした乗り心地で跳ねを感じることがよくあります。
この場合、1Gバネ上荷重に対してヘルパースプリングの密着荷重が低すぎることを疑い、ヘルパースプリングを密着荷重の高ものに交換すると良いでしょう。

ヘルパースプリングの目的や効力は、バネレートの固さだけではなく、非常にむずかしい一面もあります。
車種によりヘルパースプリングが無い方が良い結果だったり、ヘルパーがなければ跳ねてしまう車両もあります。
その目的や使用方法は、バネレートや密着荷重と共に複合的に検討をする必要があります。

リアに使用するかしないかは、メインスプリングのバネレートがハードかソフトかにもよります。リバウンドストロークが長すぎることになっては本末転倒。かといって、ダンパーを短くして、プリロードをかけ過ぎてもゴツゴツし始めます。
メインスプリングが柔らかいのにヘルパースプリングを併用することは一般的ではありませんし、特にフロントに使用するのは注意が必要です。
ご購入の際には、遠慮無くご相談ください。
全長調整式ダンパーだからヘルパーがいらない、というのは間違えであることがお分かり頂けましたでしょうか?

減衰力の調整
減衰力の調整は、一般的にダンパーのロッドにあるロースピードアジャスターと、リザーバータンク側にあるハイスピードアジャスターに分かれます。
QUANTUMのロースピードは、ブリードジェットとニードルによるオイルの流量をコントロールしています。
従いまして、COMP(CD)とREBOUND(RD)は、オイルが行って来いなので、両側が変化します。
ワンウエイバルブを入れて片側だけにしたり、伸び側のバルブのプリロードを調整するものもあったりしますが、使い勝手を考慮してジェット&ニードルにしています。

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この部品の構造を知るのは、セットアップには必要不可欠です。
例えばロースピードアジャスターは、ピストン&バルブと一緒に動くダンパーのロッド内にあるので、ロッドが動き始めれば即座に反応します。
従って、ロースピードアジャスターを締め込んで(=強く)いくとステアリングのレスポンスはどんどん良くなる反面、路面の細かな凸凹を拾いやすく乗り心地もゴツゴツしてきます。
このように、ロースピードアジャスターは高周波でショートストロークな動きに対して有効であることがわかります。

QRSのロースピードアジャスターは、ターゲットとする減衰力に応じて10種類以上のジェットとニードルの組み合わせがあり、単純に強くしたり弱くしたりでなく、メインピストンの過渡特性にも大きな影響を及ぼしています。

一方、リザーバータンク内にあるハイスピードアジャスターは、密閉された容器(=シリンダー内)にロッドがストロークして入って行くと、ロッドの容積分、ロッドに押されてオイルがリザーバータンク側に移動していきます。このオイルが移動していった先を調整するので、ハイスピードアジャスターは微小ストロークでは反応しづらく、また、ダンパーのロッドとは直結していないことからも時差が生じます。

従って、ハイスピードアジャスターは微少ストロークで鈍感なため、路面の凸凹で跳ねづらく、作動には時差が生じることからも荷重が乗りやすく、スタビのように、ある程度動いていった先を調整するので、徐々に締め込んでいけば、その変化を体感しやすいメリットがあります。このように、ハイスピードアジャスターは低周波でロングストロークな動きに対して有効であることがわかります。

QRSのハイスピードアジャスターは、ロールやブレーキング、トラクションを掛けていった際の前後の大きな動き(=ピッチング)をコントロールするのに優れています。
それでは、このハイスピードとロースピードをどのように調整して行ったら良いのか。
商品の出荷時には、目安となるアジャスターポジションにセットしてあります。
まず、ハイスピードアジャスターはそのままに(または MAX-3.5回転戻しに)ロースピードアジャスターだけを調整してみます。
1回の調整は1/8回転(=45度)~1/4(=90度)が目安です。それ以上大きく振る場合、行きすぎる傾向にあります。締め込み過ぎるとゴツゴツ感が、ゆるめすぎるとフワフワ感が出てきます。

徐々に調整の幅を狭め、おいしいところが出てくると、例えばリアは高速のギャップを通り越して一発で収まるところにすると、多少の突き上げ感があり、乗り心地を優先させるとおつりが2~3回残る様な場面に遭遇します。
この時にハイスピードアジャスターがあれば、ロースピードアジャスターを乗り心地優先に合わせてセットし、ハイスピードアジャスターを0.5回転締め込む(MAX-3.0回転戻しにする)だけで、このおつりが一発で収まります。乗り心地に影響はほとんど出ません。

フロントで言えば、連続するS字コーナーがあったとして、1個目のコーナーはどんな足でも曲がれても、2個目の切り返しでは荷重移動が大きくしかも早いので、ちゃんとしたダンパーでなければ怖い思いをします。
やはり、ハイスピードアジャスターはそのままにロースピードアジャスターだけを調整していくと、ターンインのレスポンスはどんどん良くなっていく反面、路面の凸凹で車が跳ね始めたり、進入時の姿勢は上手く作れてもクリッピングポイントを過ぎてからアンダーが出たり、逆に弱くするとコーナーリングが残ってなかなか切り返しができなかったりします。
この時にハイスピードアジャスターがあれば、ロースピードアジャスターを弱め、つまり物足りなさが残るが跳ねない程度にセットし、ハイスピードアジャスターを0.5回転締め込む(MAX-2.5回転戻しにする)だけでコーナーリングにメリハリが出てロールが減り、切り返しがかなり高い次元において容易になります。乗り心地に影響はほとんど出ません。

ただし、ハイスピードアジャスターは、大きな仕事をする反面、効かせすぎるとブレーキングでノーズダイブが止まってチャタリング(タイヤがゴムまりのように跳ねる)が出たり、高速コーナーで強烈なアンダーステアに見舞われますからほどほどに。

逆に言うと、Sタイヤに履き替えてサーキットのスポーツ走行を楽しむ場合、より広い調整範囲のセッティングが可能になってきます。

QUANTUM T5-RSは、セカンドピストンのセッティングを適切な位置にあわせ出荷しています。
ハイスピードアジャスターは装備されていませんが、同じ構造を持った固定式とご理解ください。

レース用ダンパーは、前出の機能に加え、ティームオーダーにより様々な機能が盛り込まれていきます。基本的にはオーダーメイドなので、軽さを求めてシンプルな構成にする場合もあれば、テストの機会が少ないので、調整幅を持たせるほか、メインピストン意外に 2nd~3rd~4th-PISTON と、ダンパー内がピストン&バルブだらけになることもあります。
例えば、減衰力プリロード・アジャスターは、ブローオフポイントを変化させる一つのアイデア。

または、減衰力ハイスピードカット・バルブなども、2次的なブローオフポイントを創ります。
ハイスピード・アジャスターとブローオフ・バルブを組み合わせて、減衰力の絶対値は変化させずに、ブローオフポイントを違った角度で変化させることも、開発初期の段階では試されます。
こういう在り来たりの機能以外にも、振動数に合わせた調整のため、作動量に対する減衰力が効き出すレスポンスを選べる工夫がなされています。
例えば、ストレートで250km/h以上の速度になるとダウンフォースにより車高が下がるのでその対策。
ストレートエンドでのフルブレーキングにはリバウンドの減衰力が強くなるが、コーナーリング中は弱くなる仕組み。
左右のダンパーを繋げて(新しい機構によるセッティングのため)リザーバータンクを共有したり、逆に左右のダンパーを1本にまとめて連結し、油圧だけを取り出して調整機構を分離したりと、軽量化、スペースの問題、リンクを省いて作動時のフリクションを減らすなど、ここでも基本に忠実に開発が営まれています。

プロドライバーの走り
せっかくなので、レース用ダンパーを使用したプロの走りを・・・。

プロのドライバーは、セットアップのポイントにいろいろなアングルを持って取り組んでいます。
90年代半ばのF3000は、ダイグレッシブな特性のダンパーの優位性に気がついたチームはごく少数でした。
マシーンの姿勢変化を伸び側の減衰力でなく、縮み側の減衰力でコントロールすることによって、アウト側のダンパーの減衰力の反力がタイヤを路面に押しつけるメカニカルグリップとして作用するからです。
縮み側のダンパーで、車を下から支えながらの滑り出す特性が安定していることからも、4輪がスライドしながら前に進んでいくセッティングとしたわけです。

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またTOPチームはコーナーリング中のイン側のタイヤを壊さないようなセッティングに取り組み、次に続くコーナー(イン側のタイヤがアウト側になる)での初期アンダーを防ぐ努力をすることによって、タイムアップを成し遂げました。
通常、1個目のコーナーでイン側のタイヤにブリスターが発生した場合、次の切り返しで、このブリスターがきれいになるまでアウト側のタイヤはグリップをしませんが、そもそもタイヤにブリスターが発生しなければ始めからグリップするからです。
フォーミュラー・ニッポンでは、車の姿勢変化がエアロダイナミクスのバランスに大きく影響するため、フル・ブレーキングでリアが浮き上がるのを嫌って、ヒール&トーでリアに駆動を掛けながら(こうするとトルクアクションでリアの車高が下がる)減速をする離れ業も。

最近のGTカーは、パッと見昔のGroup-C カーを彷彿させますが、当時流行ったウイングカーと違い、フラットボトムでダウンフォースも馬力も少なく、意外と一般的なツーリングカーの仕様になっています。
ドライバーが組んで交代しながら走る耐久レースの要素が高く、お互いの妥協点もあり、セッティングもタイヤに優しい仕様に仕上がっています。
この下地を作り上げたのがGroup-AのあとのNew Touring カーでした。
90年代半ばのNew Touring は、現代につながるジオメトリーのいわば実験の場でした。
ロールセンターと重心の位置関係により(=近い)荷重移動を機械的に減らした関係で、極端にREBOUNDの低速側の減衰力を減らし、プログレッシブな特性とし、COMP側でロールを押さえ、当時の未熟な跳ねやすいタイヤの欠点を補っていました。
一方、現代のN-1はレギュレーションの関係でジオメトリーはいじれないので、重心とロールセンターが離れ、REBOUNDが無ければ走れない車です。

車にもよりますが、プロがこだわるのはコーナーリング進入時の姿勢作り。
ある程度仕上がった車は、一回のアクションでターンインのロールアングルと、クリッピングポイントまでの前後の車の姿勢を作ります。
エアロダイナミクスが期待できない車なので、この姿勢作りがすべてですが、プロが違うのはここ。
単純に考えればブレーキをリリースするとフロントがリフトしてくるので、そのままトラクションを掛けていくとアンダーステアです。
ところが、ブレーキングを残しつつ、ここで切るか~って言うポイントで、ハンドルを切っていくことにより、タイヤを路面に押しつけ、タイヤを潰すイメージでターンインの姿勢を作るのがプロ。
その先ステアリングを切り足したり、(フロントが伸び上がらないように)車速を上げることによって、フロントの外側をさらにプッシュ。フロントに荷重を残したままフロントの車高を低い状態に保ちつつコーナーリングの後半へとつなげていきます。
進入でアンダーが出た車は、その先も基本的にはアンダーステアに終始します。そのアンダーが出ない様な前後の姿勢がどこなのかを探りながら運転をしています。
プロのレーシングドライバーにとって、ツーリングカーの動く振動数は、フォーミュラーの 2/3 。
彼らにとってゆっくり動くと感じられる車体が、これからどうやって動いていくかを予知しながら、コーナーリングの姿勢を作り、それを維持して旋回をしていくわけです。

アマチュアドライバーはこういう姿勢作り、特にブレーキのかけ始めてからリリース、そのブレーキを引きずりながらステアリングを切り始め、フロント荷重を意識しつつスロットルを踏み込み(アクセラレーション)さらにステアリングを切り足すか、またはステアリングを戻しながらのアクセラレーション、と言った一連の動作をそれぞれオーバーラップさせながら操作することが難しく、ばらばらになりがちです。
慣れもあるとは言え、前後(縦G)左右(横G)の荷重移動を意識した運転を心がけていれば、徐々に見えてくるものがあると思います。

タイヤのグリップをどう使うか。
最初はそのほとんどをブレーキングに食われ、だからこそ、ブレーキングでタイヤを潰しながらステアリングを切るわけですが、ブレーキングによって車速が落ちていくと、あるポイントから急に曲がり出すことに気づくはずです。
これは、タイヤのグリップ力を縦Gに使っていたポイントから、横Gに使えるポイントに来たことを意味します。ある意味待つのもセンスなら、切り替わりのタイミングをつかむのもセンスです。
そのタイミングで、フロント荷重(=フロントの車高が低いまま)を維持しつつ、二次旋回に向けてステアリングを微妙に切り足し、リアが大きく沈み込まないようなアクセラレーションができるかどうかもセンスです。

ブレーキングやステアリングアクションによって行う荷重移動(コーナーリングの)も、最初から強いバネレートを使用すると荷重移動の頃合いを感じ取れず苦労します。
初めは荷重移動をさせやすいソフトなバネレートから始めて、徐々にハードなバネレートにステップアップしていった方が良いでしょう。ドライバーの運転スキルのレベルアップとともに、タイムアップしていきますので、安全かつ楽しく学べるのではないでしょうか?
QRSでは、サーキットをこれから走ろうという方には、将来のステップアップも見据えたセッティングを提案しています。
コーナーのターンインで姿勢を作り、中間でアンダーを出さないようにできたら、後はもう踏むだけ・・・・・。
出口でスピンはちょっと恥ずかしい?

ドライバーの意図する姿勢を維持するために、どの速度域でどういう特性のピストンがマッチするかは、サスペンションのレバー比にもよりますが、基本的にはテストしかありません。闇雲に、減衰力のアジャスターを動かしたところで得られる結果は固いか柔らかいかだけですが、特性の違うピストンでセットアップすれば、アジャスターを動かす前から根本的なポテンシャルの違いを実感できます。
良く3way, 4way とアジャスターが多い方が高性能なイメージがありますが・・・・・。
上記の理由により、傾向を探るための道具としては便利ですが、基本性能(=タイムの出る)の差を凌駕するわけではありません。



レースダンパーも流行がありまして、一時期アジャスターが どんどん増えていって、サードダンパーも出てきて、サードダンパーの中にトランスファースプリングが入っていたりして、と言うのが90年代前半。
しかし、左右の減衰力を同じにあわせるのが難しかったり、設計者の意図を逸脱した調整によるトラブルが多発しました。(F-1の世界でも)
スプリングの所でも話しましたが、スプリングのプリロードは10㎜→20㎜と掛けていけば結果的に固くなりますが、スイートスポットを外れてゴツゴツし出します。やっぱりしなやかに、かつ固くするのなら、バネレートを上げてプリロードは0~3mmの範囲で調整します。
結局ダンパーの内部構造も、コイルスプリングやリーフスプリングでダンパーの固さを調整しているので、そのプリロードには設計者の意図する範囲で使用しなければなりません。これができそうでなかなか守ってもらえない。
だから思い切って調整は1カ所にして、後はすべてデータに基づく機械的構造のスイートスポットに固定したのが90年代中ごろ。

この時に併せて推し進められたのがローフリクション化の追求です。
コテコテの4wayでどのようにも調整できますとやるよりは、シンプルに作動抵抗を減らしピュアーな減衰力特性(ただし何種類もの特性違いがありますが)と、バネの特性を生かしたセッティングの方が、純粋に基本性能が高いのでタイムが出たんです。
これはQRSの基本的な考え方でもあります。
(実はうちのエンジニアがよそのメーカーに出て行ってやったことですが・・・・・)

最近は、ダンパー内の減衰力調整機構のプリロードの調整範囲を増やす構造にし、左右のダンパーの誤差が少ない工夫がされ、リザーバータンクを廃止して・・・・・。
また4wayとか流行ってきました。
バイクの方でも、ハイスピードアジャスターを廃止した商品が出てきましたが、走行するシチュエーション(低速コーナーか高速コーナーか)や振動数に対する個別の調整ができなくて、昔の2wayに戻りつつあります。(ハイスピードアジャスター付きのダンパー)
やっぱりダンパーロッドが動くとすぐに効き出すロースピードアジャスターと、ダンパーがある程度ストロークしないと効果のないハイスピードアジャスターの受け持つ守備範囲を、1カ所に集約するメリットは感じられません。
QRSでも、多少オールドファッションに見られがちな現状のレース用ダンパーを近々刷新する予定ですが、実際使ってくれているチームは現状でタイムが出ているだけにあまり興味がないようで・・・・・。



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