この部品の構造を知るのは、セットアップには必要不可欠です。
例えばロースピードアジャスターは、ピストン&バルブと一緒に動くダンパーのロッド内にあるので、ロッドが動き始めれば即座に反応します。
従って、ロースピードアジャスターを締め込んで(=強く)いくとステアリングのレスポンスはどんどん良くなる反面、路面の細かな凸凹を拾いやすく乗り心地もゴツゴツしてきます。
このように、ロースピードアジャスターは高周波でショートストロークな動きに対して有効であることがわかります。
QRSのロースピードアジャスターは、ターゲットとする減衰力に応じて10種類以上のジェットとニードルの組み合わせがあり、単純に強くしたり弱くしたりでなく、メインピストンの過渡特性にも大きな影響を及ぼしています。
一方、リザーバータンク内にあるハイスピードアジャスターは、密閉された容器(=シリンダー内)にロッドがストロークして入って行くと、ロッドの容積分、ロッドに押されてオイルがリザーバータンク側に移動していきます。このオイルが移動していった先を調整するので、ハイスピードアジャスターは微小ストロークでは反応しづらく、また、ダンパーのロッドとは直結していないことからも時差が生じます。
従って、ハイスピードアジャスターは微少ストロークで鈍感なため、路面の凸凹で跳ねづらく、作動には時差が生じることからも荷重が乗りやすく、スタビのように、ある程度動いていった先を調整するので、徐々に締め込んでいけば、その変化を体感しやすいメリットがあります。このように、ハイスピードアジャスターは低周波でロングストロークな動きに対して有効であることがわかります。
QRSのハイスピードアジャスターは、ロールやブレーキング、トラクションを掛けていった際の前後の大きな動き(=ピッチング)をコントロールするのに優れています。

それでは、このハイスピードとロースピードをどのように調整して行ったら良いのか。
商品の出荷時には、目安となるアジャスターポジションにセットしてあります。
まず、ハイスピードアジャスターはそのままに(または MAX-3.5回転戻しに)ロースピードアジャスターだけを調整してみます。
1回の調整は1/8回転(=45度)~1/4(=90度)が目安です。それ以上大きく振る場合、行きすぎる傾向にあります。締め込み過ぎるとゴツゴツ感が、ゆるめすぎるとフワフワ感が出てきます。
徐々に調整の幅を狭め、おいしいところが出てくると、例えばリアは高速のギャップを通り越して一発で収まるところにすると、多少の突き上げ感があり、乗り心地を優先させるとおつりが2~3回残る様な場面に遭遇します。
この時にハイスピードアジャスターがあれば、ロースピードアジャスターを乗り心地優先に合わせてセットし、ハイスピードアジャスターを0.5回転締め込む(MAX-3.0回転戻しにする)だけで、このおつりが一発で収まります。乗り心地に影響はほとんど出ません。
フロントで言えば、連続するS字コーナーがあったとして、1個目のコーナーはどんな足でも曲がれても、2個目の切り返しでは荷重移動が大きくしかも早いので、ちゃんとしたダンパーでなければ怖い思いをします。
やはり、ハイスピードアジャスターはそのままにロースピードアジャスターだけを調整していくと、ターンインのレスポンスはどんどん良くなっていく反面、路面の凸凹で車が跳ね始めたり、進入時の姿勢は上手く作れてもクリッピングポイントを過ぎてからアンダーが出たり、逆に弱くするとコーナーリングが残ってなかなか切り返しができなかったりします。
この時にハイスピードアジャスターがあれば、ロースピードアジャスターを弱め、つまり物足りなさが残るが跳ねない程度にセットし、ハイスピードアジャスターを0.5回転締め込む(MAX-2.5回転戻しにする)だけでコーナーリングにメリハリが出てロールが減り、切り返しがかなり高い次元において容易になります。乗り心地に影響はほとんど出ません。
ただし、ハイスピードアジャスターは、大きな仕事をする反面、効かせすぎるとブレーキングでノーズダイブが止まってチャタリング(タイヤがゴムまりのように跳ねる)が出たり、高速コーナーで強烈なアンダーステアに見舞われますからほどほどに。
逆に言うと、Sタイヤに履き替えてサーキットのスポーツ走行を楽しむ場合、より広い調整範囲のセッティングが可能になってきます。
QUANTUM T5-RSは、セカンドピストンのセッティングを適切な位置にあわせ出荷しています。
ハイスピードアジャスターは装備されていませんが、同じ構造を持った固定式とご理解ください。
レース用ダンパーは、前出の機能に加え、ティームオーダーにより様々な機能が盛り込まれていきます。基本的にはオーダーメイドなので、軽さを求めてシンプルな構成にする場合もあれば、テストの機会が少ないので、調整幅を持たせるほか、メインピストン意外に 2nd~3rd~4th-PISTON と、ダンパー内がピストン&バルブだらけになることもあります。
例えば、減衰力プリロード・アジャスターは、ブローオフポイントを変化させる一つのアイデア。

または、減衰力ハイスピードカット・バルブなども、2次的なブローオフポイントを創ります。
ハイスピード・アジャスターとブローオフ・バルブを組み合わせて、減衰力の絶対値は変化させずに、ブローオフポイントを違った角度で変化させることも、開発初期の段階では試されます。
こういう在り来たりの機能以外にも、振動数に合わせた調整のため、作動量に対する減衰力が効き出すレスポンスを選べる工夫がなされています。
例えば、ストレートで250km/h以上の速度になるとダウンフォースにより車高が下がるのでその対策。
ストレートエンドでのフルブレーキングにはリバウンドの減衰力が強くなるが、コーナーリング中は弱くなる仕組み。
左右のダンパーを繋げて(新しい機構によるセッティングのため)リザーバータンクを共有したり、逆に左右のダンパーを1本にまとめて連結し、油圧だけを取り出して調整機構を分離したりと、軽量化、スペースの問題、リンクを省いて作動時のフリクションを減らすなど、ここでも基本に忠実に開発が営まれています。