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Hysteresis vs Friction

Hysteresis vs Friction

How to set-up


フリクションの話でもう一つ
QUANTUMはピストンリングやオイルシール、個々の部品の精度や作動抵抗を減らし、基本に忠実にローフリクションを開発のテーマに掲げ物作りをしています。
それは、機械的にもそうですが、油圧分野においてもそうです。

例えば、1本のダンパーでCOMP減衰力特性と言っても、縮み始めてから縮み終わるまでの過渡特性は、油圧的な残圧を伴なって始まり、また残圧を残しながら終わるので、イコールにはなりません。この油圧的な0点の歪みをヒステリシスと言います。
正確には別の要素も入ってきますので、一概に一つの言葉では説明できませんが、ヒステリシスの差(=残圧)が、これから発生されるべき減衰力(=エネルギー)とは相反する方向で作用するため、本来得られる減衰力(エネルギー)のロスと捉えます。すると、いくら減衰力を強くしていっても、ヒステリシスの大きなダンパーでは動き始めの減衰力の発生は遅れます。
つまりダンパーの効かない空走時間が発生すると言うことです。
その後ヒステリシスによる損失を吸収し、本来の減衰力が発生する過渡期には、いわば減衰力が急に効き出すことになり、そのギャップが乗り心地の固さに直結します。

このように、油圧部品であれば避けられないヒステリシスは、減衰力のアジャスターによって歪められ、さらに発生される残圧(またはエネルギーが立ち上がる遅れ)が、機械的な作動フリクションに追加される形でヒステリシスを増大させます。
この場ではわかりやすくするため大まかに、油圧的なフリクションとご理解ください。
で、そのヒステリシス。
乗り心地とハンドリング、そしてダンパーの効きを実感するためにはできるだけ少なくする必要があります。
先ほども説明したとおり、機械的な作動フリクションもしかり、油圧的なフリクションもしかり、この両者のネガティブな要素でしかないヒステリシスを顧みず、ダンパーの開発はあり得ません。



QRSのレースダンパーは、昔からメインピストンの減衰力を70%~90%に設定し、リザーバータンク側のセカンドピストン(=ハイスピードアジャスター)を追加的に10%~30%を組み合わせて全体の減衰力としてきました。
その過渡特性もリニア、ダイグレッシブ、プログレッシブ、全てメインピストンに依存し、リザーバータンク側のセカンドピストンに対する依存度を極力抑え、同じ減衰力を発生させるにしても、ダンパー内の内圧を上げることなく、十分な減衰力を得られる工夫がされています。
そのため、COMPからREBOUND、REBOUNDからCOMPへの切り替わり時に発生する残圧も低く抑えることができ、ヒステリシスを最小限に、そしてQRSの低圧ガス化へとつながっていくのです。

ところが、90年代半ばから2000年前半にかけてのトレンドは、メインピストンの設定やバルブはいい加減でも、セカンドピストン側のハイスピードアジャスターによって減衰力はいかようにでもなりますよ、とやっていました。
この頃のダンパーはメインピストンの減衰力を10%~30%、ハイスピード側で70%~90%出していました。
当時見かけたダンパーのロッド径=Ф16mm~Ф25mmなんて言うのがその類です。
一般的なダンパーのロッド径はФ12mm~Ф14mmでした。(作動フリクションの差に注目)
ダンパーをばらすことなく、調整範囲が広いことからも、開発力の低いレーシングチームがそれを鵜呑みにして、行き当たりばったりのセッティングをしていましたが、今の常識では、セカンドピストン側のハイスピードアジャスターに40%以上依存した減衰力の出し方は、ヒステリシスが極端に増え(=油圧的なフリクションが増え)車がはねる根本的な原因と理解され始めました。
それは、メインピストン側で発生される減衰力(=エネルギー)の根拠がメインピストン径に対する圧力であることに対し、セカンドピストン側で発生される減衰力の根拠は、シャフトの直径で押し出されたオイルが、セカンドピストンとの間で発生される減衰力であり、メインピストンより遙かに小さいシャフトで作られる減衰力によって、ダンパーの内圧が高圧になるためです。
この高圧でなければ得られない減衰力の残圧が、切り替え時のヒステリシスとして現れ、ドライバーはフリクションとして感じるのです。
前出=減衰力調整機構の、機械的なプリロードのスイートスポットを越えて調整していたのもこの頃です。
この場合、伸び始めと伸び終わりの減衰力、縮み始めと縮み終わりの減衰力は、機械的にゆがまされ、その結果ヒステリシスが開いて、乗り心地も悪く跳ねやすい、負のスパイラルに陥ります。

ヒステリシスは、機械的な作動フリクションも映し出します。
ヒステリシスの開いている(=フリクションが大きい)ダンパーはセッティング以前の、基本性能を無視した商品といえます。

例えば、アウディRS6(V8 Twin Turbo / 4WD)用のダンパーがあったとします。
この車のバネ上荷重が850kgfも有り、伸び側の減衰力がRD=500kgf オーバーだったとします。
一方、BMW E36 M3 (直6 NA / FR)は、バネ上荷重が300kgfで伸び側の減衰力 RD=100kgfだったとします。
最近のレースダンパーは、開発力のないチームの要望に合わせて調整範囲を大きくし、このRD=500kgfのダンパーとRD=100kgfのダンパーを、アジャスター1つで調整可能、共有できる様な作りになっています。
確かに便利は便利だと思います。
細かな組み換え無しに、マシーンに装着したままササッと調整できるわけですから。

でも、もうおわかりかと思いますが、これほどまでの減衰力の差を1本のダンパーでまかなうためには、ダンパーの機械的なキャパシティをターゲットとする減衰力の高い側(RD=500kgf)に合わせる必要があります。それは減衰力の低い側(RD=100kgf)のダンパーにとって過剰なキャパシティです。
つまり、このダンパーはRD=100kgfの車両にとってはフリクションが大きいと言うことになります。

逆にターゲットとする減衰力が RD=35kgfのダンパーをシミュレーションしてみましょう。
この減衰力のターゲットに合わせて MAX RD=90kgf までの使用を前提としたダンパーを作ります。
このダンパーをベースにRD=250kgfの減衰力を出そうとしても、内部圧力が想定値を越えてしまうため減衰力が安定しません。
しかし、RD=250kgfに合わせて作られたダンパーでは得られないヒステリシスと、乗り心地が存在します。
つまりこのダンパーは RD=35kgf の車両にとって最小限のフリクションで組み立てられていることになります。

このフリクションの差は、サーキットで縁石に乗って曲がって行くときの走破性にも通じるところです。
QRSでは、ターゲットとする減衰力(キャパシティ= ZONEが有る)に応じて、機械的な作動フリクションを最小限に設定しています。
それは、基本性能追求のために。


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